事例紹介
【事例】レガシーなルールベースシステムを機械学習モデルで置き換える
複雑化した業務ロジックをAIで刷新。精度向上とメンテナンスコスト削減を両立したリプレイス事例。
佐藤 裕介
フルスタックエンジニアとして15年以上の経験を持ち、スタートアップから大企業まで幅広いプロジェクトに携わってきました。
CaseStudy AI MachineLearning LegacyModernization DX
概要
本記事では、金融業界のお客様が長年運用してきた、数千行に及ぶif-thenの条件分岐で構成されたレガシーなルールベースの審査システムを、機械学習(ML)モデルで置き換える「AIリプレイス」プロジェクトをご支援した事例についてご紹介します。
お客様の課題
- 複雑性の爆発: ビジネス要件の追加に伴い、ルールが複雑に絡み合い、もはや誰も全体像を把握できない「スパゲッティ状態」になっていました。
- メンテナンスコストの増大: 新しいルールを追加・変更する際に、他のルールへの影響範囲の調査に数週間を要し、ビジネスのスピードを阻害していました。
- 精度の頭打ち: ルールベースでは対応できない例外的なケースが増え、人間の目による手動での確認・修正作業が常態化し、属人化とコスト増を招いていました。
提案した解決策
我々は、過去の審査データ(入力情報と、最終的に承認されたか否かの結果)を教師データとして活用し、審査結果を予測する機械学習モデルを構築するアプローチを提案しました。
- データ分析と前処理: 過去数年分の審査ログを分析し、モデルの学習に有効な特徴量を特定。欠損値の補完やカテゴリ変数のエンコーディングなどの前処理を実施しました。
- モデルの選定と学習: 精度と解釈可能性のバランスから、勾配ブースティング木モデル(LightGBM)を採用。過去のデータを用いてモデルを学習させました。
- モデルの評価と説明可能性(XAI): テストデータに対する精度(正解率、再現率など)を評価すると共に、SHAPなどのXAI(説明可能なAI)技術を用いて、「なぜモデルがそのような予測をしたのか」の根拠を提示できるようにしました。これにより、ブラックボックスになりがちなAIの判断プロセスを、業務担当者が理解できるようにしました。
プロジェクトの成果
- 審査精度の向上: 機械学習モデルは、従来のルールベースでは見逃していたパターンを発見し、審査の精度が15%向上しました。
- メンテナンスコストの削減: 新たなビジネス要件は、ルールを追加する代わりに、最新のデータをモデルに再学習させることで対応可能に。仕様変更にかかるリードタイムが数週間から数日へと90%以上短縮されました。
- 属人化の解消: 熟練担当者の「勘と経験」に頼っていた判断の一部をモデルが代替することで、業務の標準化と効率化を実現しました。
まとめ
ルールが複雑化し、硬直化したレガシーシステムは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を阻む大きな壁となります。過去の運用データという「資産」を活用し、AI/MLモデルでシステムを置き換えることは、精度と柔軟性を両立させる強力な選択肢です。
著者について
佐藤 裕介
フルスタックエンジニアとして15年以上の経験を持ち、スタートアップから大企業まで幅広いプロジェクトに携わってきました。