【事例】急成長スタートアップのインフラ構築支援
ゼロからスケーラブルなクラウドインフラを設計・構築。事業の急成長を支えたIaCとCI/CD導入の舞台裏を紹介します。技術選定の背景から、直面した課題、そしてそれをどう乗り越えたのかを具体的に解説します。
佐藤 裕介
大規模サービスのインフラ運用経験10年以上。Kubernetes、Terraform、CI/CDパイプライン構築を得意とし、信頼性の高いシステム基盤を提供します。
クライアントの課題:事業の急成長にインフラが追いつかない
今回ご支援したのは、革新的なSaaSプロダクトで急成長を遂げているスタートアップ企業様です。サービス開始当初は、数台のサーバーを手動で構築・運用していましたが、ユーザー数の急増に伴い、以下のような課題が顕在化していました。
- スケーラビリティの欠如: トラフィックのスパイクに対応できず、頻繁にサーバーがダウンしていた。
- 手動運用によるミス: インフラの変更作業が手動のため、ヒューマンエラーによる設定ミスやデプロイの失敗が多発。
- 開発サイクルの遅延: 新機能リリースのたびに、インフラ担当者による数日がかりのサーバー準備が必要となり、開発のボトルネックとなっていた。
- セキュリティとコンプライアンスの懸念: 誰が・いつ・何を変更したかの追跡が困難で、セキュリティ監査に対応できる状態ではなかった。
彼らの目標は、**「事業の成長スピードを妨げない、スケーラブルで信頼性の高いインフラ基盤を構築すること」**でした。
提案とアーキテクチャ設計
我々はこれらの課題を解決するため、クラウドネイティブ技術を全面的に採用したインフラの再設計を提案しました。設計の柱は以下の3つです。
- クラウドプロバイダーとしてAWSを選定: 成熟したエコシステム、豊富なマネージドサービス、優れたドキュメントを評価し、AWSを基盤としました。
- Infrastructure as Code (IaC) の導入: 手動運用を撲滅するため、インフラ構成をコードで管理するIaCを導入。ツールとして、マルチクラウド対応も視野に入れられるTerraformを選定しました。
- CI/CDパイプラインの構築: アプリケーションのビルド、テスト、デプロイを自動化するため、GitHub Actionsを用いたCI/CDパイプラインを構築しました。
設計したAWSアーキテクチャ
graph TD
subgraph "Route 53"
A[DNS]
end
subgraph "CloudFront"
B[CDN]
end
subgraph "VPC"
C(Application Load Balancer)
subgraph "Auto Scaling Group"
D1[EC2 Instance 1]
D2[EC2 Instance 2]
D3[...]
end
subgraph "RDS"
E[PostgreSQL]
end
subgraph "ElastiCache"
F[Redis]
end
end
subgraph "S3"
G[Static Assets / Logs]
end
A --> B --> C --> D1 & D2 & D3
D1 & D2 & D3 --> E
D1 & D2 & D3 --> F
D1 & D2 & D3 --> G
図: 設計したAWSアーキテクチャの概要
- コンピューティング: Auto Scaling Group (ASG) 内のEC2インスタンスでアプリケーションを実行。負荷に応じて自動でスケールアウト/インします。
- データベース: フルマネージドなRDS (PostgreSQL) を採用し、運用負荷を軽減。
- キャッシュ: ElastiCache (Redis) を導入し、データベース負荷の軽減とレスポンスの高速化を実現。
- ネットワーク: ALBでトラフィックを分散し、CloudFront (CDN) で静的コンテンツを高速に配信。
IaCとCI/CD導入のプロセスと効果
Terraformによるインフラのコード化
最初に着手したのは、既存の手動で構築されたインフラをTerraformでコード化することでした。
プロセス:
- 既存のインフラ設定を棚卸し。
- ネットワーク (VPC)、データベース (RDS)、サーバー (EC2) など、レイヤーごとにTerraformのコードに落とし込み。
terraform planで実行計画を確認し、既存リソースとの差分がないことを徹底的に検証。terraform applyでコードからインフラを構築。最終的に、手動で作成されたリソースをコード管理下のものに置き換えました。
効果:
- 再現性の確保: 同じコードから、誰でも・いつでも同じインフラ環境を構築できるようになりました。
- 変更管理の徹底: インフラの変更はすべてGitHub上のPull Requestで行うルールに。コードレビューを通じて、変更内容の妥当性をチームで検証できるようになりました。
- 構成ドリフトの防止: 本番環境の設定がコードと乖離(ドリフト)していないか、定期的にCIでチェックする仕組みを導入しました。
GitHub Actionsによるデプロイの自動化
次に、アプリケーションのデプロイプロセスをGitHub Actionsで自動化しました。
プロセス:
- mainブランチへのマージをトリガーにワークフローが実行。
- ソースコードのビルドとDockerイメージの作成。
- TrivyによるDockerイメージの脆弱性スキャン。
- テスト環境への自動デプロイ。
- 手動承認を経て、本番環境へデプロイ。
効果:
- デプロイ時間の短縮: 数日かかっていたデプロイ作業が、数分で完了するようになりました。
- リリースの頻度向上: デプロイが安全かつ簡単になったことで、開発チームは小さな単位で頻繁にリリースできるように。
- ヒューマンエラーの削減: 自動化されたプロセスにより、手動作業に起因するミスがなくなりました。
導入後の成果
このプロジェクトを通じて、クライアントは以下の成果を得ることができました。
- 可用性の向上: サーバーダウンがほぼなくなり、サービスのSLA(サービス品質保証)が大幅に向上。
- 開発速度の加速: 開発者がインフラを意識することなく、自律的に新機能をリリースできるようになり、開発サイクルが3倍に高速化。
- 運用コストの削減: インフラの自動化により、運用にかかる工数を60%削減。
- セキュリティ強化: すべての変更がコードで管理・レビューされるようになり、統制の取れたセキュアなインフラ運用が実現。
まとめ
本事例は、急成長するビジネスにおいて、手動運用からIaCとCI/CDをベースとしたモダンなインフラへいかに移行するかを示す好例です。重要なのは、単にツールを導入するだけでなく、インフラの変更プロセスや開発文化そのものを変革していくことです。
TerraformとGitHub Actionsを組み合わせることで、スケーラビリティ、信頼性、そして開発の俊敏性を高いレベルで両立させることが可能です。もし同様の課題を抱えているのであれば、段階的な導入からでも始めてみることを強くお勧めします。
著者について
佐藤 裕介
大規模サービスのインフラ運用経験10年以上。Kubernetes、Terraform、CI/CDパイプライン構築を得意とし、信頼性の高いシステム基盤を提供します。