見逃しがちなAWSコストを削減する10の最適化戦略
EC2のRight Sizingから、S3のストレージクラス見直し、不要リソースの自動削除まで、AWSの請求額を劇的に削減する実践的なテクニックを解説。
佐藤 裕介
大規模サービスのインフラ運用経験10年以上。Kubernetes、Terraform、CI/CDパイプライン構築を得意とし、信頼性の高いシステム基盤を提供します。
はじめに
Amazon Web Services (AWS) は、その柔軟性とスケーラビリティから多くの企業で利用されていますが、一方で、設定や運用方法を誤ると、意図せず高額な請求が発生してしまうリスクも孕んでいます。特に、開発のスピードを優先するあまり、コスト意識が後回しにされてしまうケースは少なくありません。
本記事では、AWSのコストを最適化し、無駄な支出を削減するための、見逃しがちだが見効果の高い10の実践的な戦略を解説します。
1. EC2インスタンスのRight Sizing
課題: 必要以上にスペックの高いEC2インスタンス(オーバースペック)を使い続けている。
対策: AWS Compute OptimizerやCloudWatchのメトリクス(特にCPUUtilization)を定期的に確認し、実際のワークロードに見合ったインスタンスタイプに変更(Right Sizing)しましょう。t4g.smallからt4g.nanoに変更するだけで、コストは半額になります。
2. Savings Plans とリザーブドインスタンス (RI) の活用
課題: オンデマンド料金でEC2やFargateを使い続けている。 対策: 1年または3年の長期利用をコミットすることで、オンデマンド料金から最大72%の割引を受けられるSavings PlansやRIを積極的に活用しましょう。特に、常に稼働している本番環境のデータベースサーバーなどは、最適な対象です。
3. S3ストレージクラスの見直し
課題: アクセス頻度の低いデータも、高速だが高価な「S3 Standard」に置きっぱなしにしている。 対策: S3のライフサイクルポリシーを設定し、アクセスパターンに応じて自動的に安価なストレージクラスに移行させましょう。
- S3 Intelligent-Tiering: アクセスパターンが不明な場合に最適。自動でコストを最適化してくれます。
- S3 Glacier Instant Retrieval: 数ヶ月に一度アクセスするようなアーカイブデータ向け。
- S3 Glacier Deep Archive: 年に一度アクセスするかどうかの長期アーカイブデータ向け。最も安価です。
4. 不要なEBSボリュームの削除
課題: EC2インスタンスを削除しても、アタッチされていたEBSボリュームが残り続け、課金が発生している。
対策: AWS Trusted Advisorの「Underutilized Amazon EBS Volumes」や、自作のスクリプトで、どのインスタンスにもアタッチされていない(available状態の)EBSボリュームを定期的に検出し、削除しましょう。
5. Elastic IP (EIP) の解放
課題: 起動中のEC2インスタンスにアタッチされていないElastic IPアドレスを保持し続けている。 対策: アタッチされていないEIPには、小額ながら課金が発生します。不要なEIPは速やかに解放しましょう。
6. NATゲートウェイのコスト最適化
課題: プライベートサブネットからインターネットへのアウトバウンド通信にNATゲートウェイを使っているが、データ転送料金が高い。 対策: 大量のデータをS3やDynamoDBに送信する場合、VPCエンドポイント(Gateway型またはInterface型)を利用しましょう。VPCエンドポイント経由の通信はNATゲートウェイを通過しないため、データ転送料金を大幅に削減できます。
7. CloudWatch Logsの保持期間設定
課題: CloudWatch Logsにログを無期限に保存し続けている。 対策: デフォルトではログは無期限に保持されます。各ロググループに適切な保持期間(例: 30日)を設定し、不要になったログが自動的に削除されるようにしましょう。
8. 開発・ステージング環境の自動停止
課題: 夜間や週末など、誰も使っていない開発・ステージング環境のリソース(EC2, RDSなど)が24時間365日稼働している。 対策: AWS Instance SchedulerやEventBridge Schedulerを使い、業務時間外は自動的にリソースを停止・起動するようにスケジュールしましょう。
9. 最新世代のインスタンスタイプへの移行
課題: 古い世代のEC2インスタンス(例: t2, m4)を使い続けている。 対策: 新しい世代のインスタンス(例: t3, m5, 特にGravitonプロセッサ搭載のg系)は、多くの場合、旧世代よりも低価格で高いパフォーマンスを提供します。定期的にインスタンスタイプの見直しを行いましょう。
10. コスト異常検知の有効化
課題: コストが急増しても、月末の請求書が来るまで気づかない。 対策: AWS Cost Anomaly Detectionを有効にしましょう。機械学習を用いて通常のコストパターンを学習し、異常な支出を検知するとアラートを通知してくれます。早期発見・早期対応が可能になります。
まとめ
AWSのコスト最適化は、一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスです。FinOps(Financial Operations)の文化を組織に根付かせ、定期的にコストを見直す習慣をつけることが重要です。まずは本記事で紹介した低リスクで見効果の高い項目から着手してみてはいかがでしょうか。
著者について
佐藤 裕介
大規模サービスのインフラ運用経験10年以上。Kubernetes、Terraform、CI/CDパイプライン構築を得意とし、信頼性の高いシステム基盤を提供します。